谷の入口から美しい渓流に沿う遊歩道をたどること約
一キロ。谷を埋め尽くすシャクナゲの花・花・花…。淡
紅色の清楚な花は惜し気もなく咲き乱れている。花は五
月中旬頃まで咲き続き、その一番美しい時の四月二十九
日から一週は園地に地元の特産品店なども並んで、花を
楽しむ人たちで賑わう。期間中、渓流沿いの道にはバス
以外の車は入れない。昔人が残してくれた自然を我々は
次代へもひきつがねぱならないのだ。自然保護の問題
は、文明をシャットアウトすれば簡単だが、そういかな
い場合、どこで線をひくか、どこで妥協するか、長い目
でみたしっかりした価値観が要求されてくる。
ところで、遊歩道沿いにもシャクナゲは点々と生えて
おり、時々、道々の花だけを見て、"群落だなんてオオ
ゲサな…。と言うアワテ者がいたりするとか。『徒然
草』の兼好法師ではないけれど“先達はあらまほしき事
なり”。谷あいの道は上るにつれ、花の数が増し、圧
巻、シャクナゲ群落となるのだ。
シャクナゲの花が見頃の五月二日と三日、日野の町な
かでは日野祭りがくりひろげられる。綿向神社の祭礼
で、町内十六基の曳山がそれぞれ美しく飾られ、囃の音
も賑やかに町を練り歩く。曳山も日野商人たちの遺産で
ある。商人たちは得た冨をこのようにして故郷に還元し
たのである。本通りを歩くと窓のある板塀を見かける。
桟敷窓といい、家の中から曳山が練り歩くのを見物する
ためのものだが、年に一度、祭りに帰ってきた商人たち
がこの窓にもたれて、ひと時のくつろぎに浸っている姿
が想われる。 |

5月3日の日野祭
豪華な曳山が練り歩く |
シャクナゲの花が終わる頃、同じ鎌掛にある正法寺で
は優雅な藤の花が花房を垂れる。樹齢三百年以上という
藤の木は広い藤棚を這い、一メートルほどにもなる花房
を緞帳のように豊かに垂らす。境内には、端正な姿の鎌
倉時代の石造宝塔(重文)や芭蕉の句碑などもあり、目
の前にひろがる鎌掛の田園風景もまた美しい。
そして六月、音羽の雲迎寺を埋める真っ赤なサツキ。
風雅な山門から続く参道、そして庭へーよく手人れされ
た風格あるサツキの古木が生い茂り、静寂の中の安らぎ
の世界をつくっている。御住職の手で育てられた木だち
で、今ではサツキ寺と呼ばれるほどの見事な花の風景が
楽しめる。 |

一面、サツキ。住職が丹精こめて育てあげたものだ |
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