人に性格があるように、風景にも性格がある。その地
が積み上げてきた歴史や自然、そこに住む人たちの心も
ち、それからその風景を見る側の心模様も…。そんな
諸々のもので風景は性格をもつ−−−日野は穏やかだっ
た。どっしりと落ち着いて、少々のことに動じたりしな
いようなぬくもりがあった。何がこの平穏をつくってい
るのだろう…。ことに新町や清水町あたりは狭い曲りく
ねった道に白壁や黒板塀の家々が並び、時の迷宮に入り
こんだような錯覚をおこす。いや、実際、迷宮かもしれ
ない。日野は城下町だから、見通しがきかないように道
はカギ形になったり、曲がったりしている。だから、町
の人でも偶に道をまちがえてしまったりするという。な
んて楽しい迷い道。「近江商人の歩いたあとには草も生
えない」という言葉はしばしば悪いニュアンスで使われ
てきたが、私はこの豊かな町並みを歩いてみて、これは
もっと違う意味だったのではないか、と思った。行商
で、冨だけでなく、様々な文化も呼吸していったのであ
る。それはなりふり構わぬというようなものでなく、謙
虚なものだったのではないかと…。そう思ったのは近江
日野商人館になっている旧山中兵右衛門邸にあった近江
商人の主従の心得訓なるものを見た時だ。記されていた
のは「おもいやり」という言葉だった。確かに冨は質
素、倹約、勤勉で築けただろう。だが、高い文化を育て
るのは「心」である。他人を思いやれる心を忘れては文
化は育たない。近江商人がただ金儲けに懸命だったとは
思えない理由だ。 |

館内にはたくさんの民俗資料がある |
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