先年、NHKラジオのFMシアターで、五個荘町
が生まれ故郷の、シナリオ作家で映画監督でもある
深尾道典(ふかおみちのり)氏のラジオドラマ
『絵の中の少女』が放送されていた。
『絵の中の少女』とは、野口謙蔵の絵の中にしばし
ば登場する赤い着物の少女のことである。ドラマは
アサイという謙蔵の絵に魅かれた人物が、絵の中の
少女が誰なのかを探しあて、野口謙蔵や絵のこと、
赤い着物の少女のことなどの話を聞かせてもらう、
というもので、謙蔵ファンはもとより、画伯を知ら
なかった人にも興味をわかせたドラマだった。
野口謙蔵は明治三十四(一九〇四)年、滋賀県桜
川村(現蒲生町)の造り酒屋の次男に生まれた画家
である。東京の美術学校を卒業と同時に故郷に帰っ
てきて、故郷の自然や人々を描き続けた。その才能
は早くから中央画壇でも認められて、将来を嘱望さ
れていたのだが、昭和十九年、四十三歳の若さで病
没。彼は死ぬまでこの地を離れることはなく、「梅
干」とか「霜の朝」など、たくさんの名作をこの蒲
生野から生みだした。
「霜の朝」は第十五回帝展で特選になった作品だが、
これにも赤い着物の少女が描かれている。石塔寺
(いしどうじ)のある石塔山の方から蒲生野(がも
うの)一面、霜がおり、その中を赤い着物の少女が
犬を追って走っている。彩度の低い色を使っている
のに、少女の着物のたった一点の赤色で全体は明る
い印象に仕上がった絵である。「野口謙蔵記念館」
に、複製だが「霜の朝」が飾られている(本物は国
立近代美術館にある)。
|

「野口謙蔵記念館」では絵を描く謙蔵
の姿が人形で再現されている。
|